
よく、「能力は掛け算」だと言う人がいます。
例えば、日本中で一人しか持っていない超希少なスキルを身に付けるのは、
すごく大変です。
何だろう?
例えば... 「12ヵ国語を流暢に喋る」とか?
3ヵ国語、4ヵ国語は聞いたことあるけど、さすがにこれは別格。
確かに、このレベルだと日本に1人いるかどうか、という超難関スキルだと思います。
でも、「100人に1人のスキル」なら、何とか身に付けられそうな気がします。

それって、例えば地元の中学校の1学年が100人だとして、
「学年で一人」しか出来ないこと、であれば、いいですからね。
「格ゲーが強い」でも良いかもしれませんし、
「習字が達筆」でも良いかもしれません。
それ単体だと、単なる「学年で1人」程度のスキルですが、
もし、「100人に1人のスキル」を、あなたが同時に2つ持っていたら....、
100 x 100 で、1万人に1人しか持っていないスキルを持っていることになる。
これは、もはや「神童」と呼んでもいいかもしれない。
もし、「100人に1人のスキル」を、あなたが同時に4つ持っていたら...、
100 x 100 x 100 x 100 で、1億人に1人しか持っていないスキル、
つまり、日本人の1人か2人しか持っていないスキルを、手にしていることになる。
これは、もはや「鬼才」と呼んでもいいのかもしれない。
「能力は掛け算」が意味するところ
これが「能力は掛け算」ということです。
一つ一つのスキルは大したことはなくても、
複数組み合わせることで「神童」「鬼才」「天才」「超人」に、なれるのです。
仮に、何か一つのことに秀でていても、その「一つ」だけで、
他の追従を許さないほどの評価を得ることは、よほど達人の域でないと難しい。
でも、「あの人はこれも出来る、あれも出来る、そんなことまで出来るのか! 天才だ!」
というほうが、実は「達人」になるよりもハードルは低い。
そのくらい「掛け算」の威力は、強力です。
しかし....
この話には2つ、大きな落とし穴があります。

「能力は掛け算」の成功例
良い例から、話しましょうか。
私の知人に、ガジェット系のYouTuberがいます。
つまり、iPhoneの最新機種とか、流行りのワイヤレスイヤホンとか、Apple Watchとか、
そういうのを面白おかしく紹介することに長けた人材です。
この人には「家電・ガジェットについて語る知識」がある。
そして、YouTubeで毎回、何万~何十万回再生を稼ぐほどの「動画編集スキル」がある。
そして、実は、この人には「英語が出来る」というもう一つのスペックがある。
ただ「家電に詳しい」だけでは、ただのオタクですが、
彼は、それをYouTubeで動画で配信するセンスと、動画編集スキルを持っていたために、
大学を卒業した後、就職することなくYouTuberとして生きていくことが、出来ています。
(ちょっと憧れます...)
そして、彼には「英語」がある。
だから、例えばAppleのWWDC(毎年恒例の新製品発表会)のリアルタイム通訳でのYouTube配信など、
「彼にしか出来ない」付加価値をつけることが出来る。
これが出来る日本人YouTuberは、恐らく日本で彼一人です。
ぶっちゃけ、英語通訳が彼より上手い人は幾らでもいるし、
動画編集スキルが高く、YouTuberとして彼より成功している人は幾らでもいるし、
家電・ガジェットについて彼より詳しい人は幾らでもいます。
でも、これらのスキルを「同時に」保有していて、
かつ実践しているのは、恐らく日本で、彼一人です。
これが、複数のスキルを掛け合わせた、「掛け算」の威力です。

「能力は掛け算」が失敗する理由
① 掛け算になっていない
続いて、この話の2つの落とし穴について、紹介します。
まず一つ目は、
「そもそも掛け算になってない」というケース。
例えば、ですけど、
「英語が出来る人」にはある程度、需要はありそうです。
同時に、
「海外駐在経験がある人」は高く評価されそうな気がします。
しかしながら、「英語が出来る」 x 「海外駐在経験がある」は、
「能力の掛け算」とは言えません。
理由は簡単。
「海外駐在経験者」のほとんどは、「英語を喋る」から。
仮に、英語を喋れる人が、100人に1人で
海外駐在経験者が100人に1人だったとしても、
これは、100 x 100 で「1万人に1人」にはなりません。
同じ分野を掛け合わせても、意味がないのです。
あるスキルAを身に付けた時に、付随してスキルBを持っている人も多い、という場合、
これは全く有利にはなりません。
この「海外駐在経験」 x 「英語」は極端な例なので、みんな理解できると思いますが、
実際には、
このように「掛け合わせても価値が上がらない」複数のスキルを一生懸命身に付けている人は、結構います。
英語 x フランス語 とか、
SQL x Python とかも、そうかもしれません。
100 x 100 で 「1万人に1人のスキル」と言うためには、
母集団が被っていないことが前提になりますからね。

「能力は掛け算」が失敗する理由
② 掛け合わせた先に需要が無い
落とし穴、2つ目はもっと単純です。
「掛け合わせても需要が無い」= つまり、「掛け合わせてる意味がない」ケースです。
例えば、ですが、
① コンニャクを最高に美味しく調理する、超絶的な料理テクニックを持ち、
② 体脂肪率4%で筋肉ムキムキで、昨年ベスト・ボディ・ジャパン全国大会に出場し、
③ ミニ四駆選手権・全国大会の4年連続ファイナリストで、
④ クラゲの発光に関する研究で、国立大学の博士号を取得しており、
⑤ かつ、広東語がペラペラの日本人がいたとしましょう。仮に。
こんな日本人が存在するかどうかは分かりませんが、
もし実在したとすれば、こんな人は日本にただ一人でしょう。間違いなく。
5つのスキルそれぞれが、100人に1人、もしくはそれ以上に希少な能力です。
そして、一つ一つのスキルは、どこかでは役に立つものかもしれない。
でもね、残念なのですが、
この5つのスキルを同時に必要とする場所は、たぶん、存在しません。
確かに「1億人に1人」のスキルを持っているかもしれませんが、
それが役に立つ場所が無ければ、何の意味もないのです。
これは、かなり極端な例を挙げたので「はあ。。。」という感じかもしれませんが、
実際、こういうことは沢山あって、
例えば、私自身も、
「英語がペラペラ」 x「中国語がペラペラ」という、
一見、超希少なスキルを持っていますが、
実はこれには需要が無く、
「希少」なだけで「価値」が無いことに気づいて、
呆然としたことがあります。
詳しくは、下記の記事を読んでください。
「他の人が持っていないレアスキル」を身に付けろ、と言う人がたまにいます。
しかし、
実は「レア」なだけでは、実は何の意味もないのです。
大事なのは「需要」があるかどうか。
この点をちゃんと理解しないと、
100 x 180 x 30 x 0 = 0 みたいな不毛な掛け算をすることになります。
ただ「異なる分野で複数のスキルを身に付ければいい」というわけではないのです。
それは、前述のとおり「英語 x 中国語」の威力を過信していた私が、痛いほど分かっています。
この辺を見誤ると、「計算ミス」が後々効いてくることになります。
人生の後半でね。
だから、この話は、実は結構重要で、恐ろしい話だったりもします。
きちんと意味のあるものに、意味のある方向で投資をしないと、
自分の人生は拓けません。
時間を無駄にしないように。
自分の人生をどこに投資すべきかは、
じっくり、考えたほうがいいと、思います。
考えるためのヒントは、このブログの中にも幾つかあります。
皆様の、
キャリアの成功を、
心から応援しています。
お相手は、安斎響市でした。
