
よく「市場価値」が大事だと言う人がいます。「転職市場での自分の市場価値が、年収を決める」と。
私も、少し前まではそういう考え方をしていました。
転職活動をする時に、どのようなスキルや経験を持っているか、そういう自分の「市場価値」を高めていかないと、長期的に生き残れない。
確かに、その考え方自体は決して間違ってはいないと思います。
ただ、私は、少し別の考え方を持っています。
それは「市場価値なんか無くても、転職で年収を上げることは出来る」ということです。
「市場価値」とは何か?
そもそも「市場価値」とは何でしょうか?
「価値」というからには、何か指標がないと、その価値が高いのか低いのか、分かりません。
転職市場において「自分の価値が高い」とはどういうことでしょうか?
もちろん、
それを測るための最も一般的な指標は、「年収」だと思います。
年収1,000万の人には「1,000万の価値」があり、年収500万の人には「500万の価値」しかない。
一見、もっともらしく聞こえるかもしれません。
実は、この考え方は少しズレていると私は思います。
「市場価値」=「年収」なのか?
この考え方を正としてしまうと、
年収1,000万の人には、人材として、年収500万の人の2倍の価値がある、2人分の価値があることになってしまいます。
当然ながら、現実としてそんな事はありません。
私は、25歳の頃、日系大手企業の本社で総合職として働いていましたが、その時の年収は400-500万程度でした。
その後、何度か転職して、外資に来たときに年収が800万円になりました。
私は、年収400万円の時の、2倍仕事が出来るようになったのでしょうか?
2倍の価値を生み出せるようになったのでしょうか?日系大手にいる同期よりも遥かに優秀になったのでしょうか?
その3年後、私は再度転職して、IT業界に飛び込みました。
年収は1500万を超えようとしています。
私は、前職外資にいた時の更に2倍、日系大手にいた時の4倍、優秀になったのでしょうか?
もちろん、そんな事はありません。
そもそも「人材としての価値」や、「仕事が出来るかどうか」なんて評価は、極めて曖昧なもので、各々の会社や周りの環境に大きく左右されます。
確かに、傾向として、「英語が出来る」「プログラミング等のITスキルがある」「管理職経験がある」などの方が高い値段が付きやすい、ということはあると思います。
ただ、これはあくまで「傾向」の話で、実際にいくらの値段で売れるか(転職時にいくらの年収オファーをもらえるか)とは本質的には関係がありません。
なぜなら、どういう人材に、いくらの年収を提示するかは、
その会社の、
その時の状況下での、
その時の意思決定者の、
その時点での判断でしかないのだから。
「市場価値」なんてものは、存在しない。
「市場価値」とは、「時価」のようなものです。
たまたま、その時、そのタイミングで、その値段が付いただけ。
私自身も、仮に過去に戻って、同じ会社の面接をもう一度受けたとして、また内定をもらえるかどうかなんて分からないし、同じ年収を提示してもらえるとは限らない、と思っています。
私の前職の人事部長は、よく「採用は水物」と言っていました。
色々な状況や条件が日々変わっていく。
採用企業側にとっても、求職者側にとっても、チャンスはあっという間に流れていってしまう。
そして、「企業が何を求めているか」は、その時の状況や、意思決定者の考え方によって大きく変わる。
だから、
普遍的な「市場価値」なんてものは、この世には存在しなくて、
ただ単純に、
転職時にオファーされた金額 = 自分がサインした金額が、現時点での、自分の「市場価値」になる、
というだけのことなのです。
市場価値なんてものは存在しない:例①
2つほど例を挙げましょう。
1つ目の例は、私が前職の外資メーカーにいた頃の同僚:M君の話です。
M君は、都内のいわゆるFラン大学を卒業した後、定職に就かず、フラフラして、Amaz○nの転売業者などで働いていました。
今で言うと、コロナを機に「マスクが売れる!」と思えば、直ちにマスクを買い占め、法外に高い値段で売るような、お世辞にもまっとうな仕事とは言えない人たちです。
その後、更に別の都内の大学院に入り、卒業してからは、またフリーターとなり、28歳で、ド○モショップの店員を、契約社員でやっていました。
年収は、300万円くらいだったそうです。
そして、経緯は分かりませんが、彼は、私がいた外資メーカーの「eコマース担当営業職」の面接を受けます。
そして、当時、
別の業界から来たばかりでメーカーのビジネスはよく分かっていない人事部長が、とにかく彼の人柄を非常に気に入ったことと、名ばかりで何もやっていなかった無能な営業部長が、「Amaz○n」というキーワードだけに釣られたことにより、
なぜか面接に通ってしまい、
彼は採用され、年収550万のオファーを得ることになります。
28歳のド○モショップの店員が、あっという間に、その辺の大手企業の総合職と同じレベルの年収を、手にしたのです。
彼に、550万の「市場価値」など、ありません。
たまたま偶然が重なって、面接に受かったから、550万の年収を得た、というだけのことです。
市場価値なんてものは存在しない:例②
2つ目の例は、私自身の直近の転職(2019年)の話です。
当時、私の肩書はAssistant Manager(係長職)で、年収は800万円程度でした。
製造業からIT業界への転身を試みた私は、ある会社のManager(課長職)の面接を受けましたが、
色々あって、「他の候補者に決まった」とのことで、残念ながら、内定をもらうことは出来ませんでした。
しかし、「あなたの評価も悪くはなかったので、別のポジションを再度受けてみないか」と言われ、全く違うポジションを、ダメ元で受けた結果、最終的に内定をもらうことが出来て、その会社に転職することになりました。
内定をもらった後に、条件面談に行って初めて知ったのですが、
そのポジションは、実はSenior Manager(部長職)で、私へのオファーは、元々の私の希望を遥かに上回る、年収1,500万というものでした。
私の担当をしていた転職エージェントさえ、「部長職だとは思っていなかった」とのことでしたが(どんだけいい加減なんだww)、
とにかく、
結果として、私は年収1,500万のオファーを得ました。
私には、年収1,500万の「市場価値」があったのでしょうか?
私は、そうは思いません。
たまたま、色々な偶然が重なって、年収1,500万のポジションの面接に運よく合格した結果、結果的に、私の値段が、「年収1,500万」になった、というだけのことだと思います。
何せ、私は、同じ会社の課長職(年収900-1,200万)の面接に、一度落ちているのだから。
落ちて撃沈した後に、なぜかそれよりも上の、部長職の面接に、たまたま呼ばれて、たまたま何度か面接を通過した、というだけに過ぎない。
「本来の私の市場価値がいくらか?」なんて考え方には、甚だ疑問です。
だって、既に私の値段は「年収1,500万」に決まってしまったのだから。
「自分の市場価値」なんてものは、
恐らく、明確には存在していないのです。
「市場価値」という幻想に捕らわれる前に、すべきこと。
「市場価値」とは何か?
という最初の命題に戻ります。
「市場価値」とは、
あなたが就職した時、もしくは転職した時に決まる、
「暫定査定価格」であり、「時価」です。
つまり、「取引が成立した時点」での「買い手が付けた」、「評価金額」です。
当然、買い手が変われば、評価額は変わります。
長期間、競りにかけなければ、あなたの価格は下がることも上がることもありません。
上記の、
例① ド○モショップ店員から外資系メーカーに転職したM君
例② 外資系メーカーから外資系IT企業の部長職に転職した私
の2つの例で、
「市場価値」が、何を基準に決まったのか、もうお分かりでしょうか?
一言で言うと「転職活動での評価」です。
「スキル」でも「職歴」でも「学歴」でもありません。
「面接を突破できたかどうか」です。
それだけで、全てが決まります。
もちろん、立派な職歴・実績や、資格やスキルがあったほうが、
転職活動は成功しやすいとは思いますが、
あくまで「成功しやすい」という傾向でしかなく、
実力があっても落ちる時は落ちるし、
逆に、
この記事で紹介した通り、
実力なんかなくても、内定が出る時には出ます。
「自分の市場価値」を高めなければ・・・・!!!
と、資格や実績を追い求めて努力をするよりも、
とりあえず、転職活動をしてみて、ダメ元で色々な会社を受けてみたほうが、
遥かに早いかもしれませんよ?
何がきっかけで評価され、
何がきっかけで採用されて、
今よりも高い年収を得られるか、なんて、
ケースバイケースで、誰にも分からないのだから。
そして、
まぐれだろうが何だろうが、
そうやって
運よく奇跡的に上がった「年収」が、
結局は、
その後の自分の
「市場価値」となるのだから。
転職活動のヒントは、私のブログやnoteにも書いています。
こちらもご参考ください。